KEN’S REPORT「多様化するアクセラレーター」

2022.01.31 レポート

1月20日にPCクラスターコンソーシアムHPCオープンソースソフトウェア普及部会の主催で「多様化するアクセラレータ」というオンラインイベントが行われました。
https://www.pccluster.org/ja/event/2022/01/220120-hpcoss-ws.html

開催趣旨には以下のように述べられています。
「2021年11月のTOP500リストにおいて、上位10システムのうち8つのシステムでいわゆる「アクセラレータ」が使われています。500システム全体で見ても30%近いシステムでアクセラレータが使われており、HPC分野においてアクセラレータを搭載するシステムは全く珍しくありません。AI分野など、アクセラレータの利用が事実上必要不可欠になっている分野もあり、今後もアクセラレータの普及は進んでいくでしょう。現在、HPC分野で最も多く採用されているアクセラレータはNVIDIA社のGPUであり、それを利用するための環境整備やノウハウの蓄積も最も進んでいます。しかし、例えば米国の次期エクサスケールシステムでは他社のGPUの採用も計画されていますし、さらにはGPU以外のアクセラレータ選択肢も増えています。演算性能を高めるだけではなく、演算以外の処理をオフロードするためのアクセラレータも登場しており、アクセラレータの用途という意味でも多様化していくでしょう。」

参加したのはNVIDIA、AMD、GRAPHCORE、インテル、NEC、SambaNovaの6社で、それぞれ以下のテーマで講演しました。
NVIDIA 「GPUとDPUによるアクセラレーテッド コンピューティング」
AMD 「AMD Instinct GPU and ROCm technical overview」
GRAPHCORE 「AI革新プロセッサIPU」
インテル 「インテルXPU戦略」
NEC 「ハイブリッドアクセラレータ SX-Aurora TSUBASA」
SambaNova 「SambaNova Systemsのご紹介」

各社の発表は既に発表済みの製品のおさらいではありましたが、半導体の性能だけではなく、ソフトウェア、開発環境も含めた総合的な性能が重要という点で各社一致していました。今回はHPCのイベントなので、倍精度演算性能やメモリバンド幅などが強調されていました。その点でNECのVector EngineであるAuroraの性能がかなり見劣りするのが、唯一の日本勢としては残念なところです。

また私が以前から注目しているAIアクセラレータの半導体を開発しているGRAPHCOREとSambaNovaはAIワークロードに特化していて倍精度演算器は搭載していないので、データセンターにおけるAIワークロードを請け負ってデータセンター全体の効率を上げる、という観点から議論していました。

各社の講演の後、東北大学の滝沢先生をモデレータにしたパネルディスカッションでは「アクセラレータの将来像」というテーマが出され、各社の回答が大変興味深いものでした。

NVIDIAは「データセンターワークロードの統合化」ということで、NVIDIAのCPU、GPU、DPUによって「データセンターを支配する」という野望が明確でしたし、インテルは「CPUに統合される」として、XPUと言っていろいろ品揃えをしても、やっぱり売りたいのはXeon CPUだけだ、という極めて明快な答えでした。NECとAMDはアクセラレータは「適材適所」で使われる、GRAPHCOREとSambaNovaは「選択肢を提供」する、ということでした。

HPCとAIの融合や、AIで大きな課題となっている疎行列の扱いなどは今回のイベントでは踏み込まれなかったのが残念でした。とは言え、ムーアの法則が終焉を迎えつつあるいま、さまざまなアクセラレータがこれからも登場してくるでしょう。AIアクセラレータの代表格として以前から日本でもビジネス展開していたCerebras Systems、GRAPHCOREに加えて、昨年末にはSambaNova Systemsも日本法人を立ち上げ、日本でのビジネスを本格化していますので、AIアクセラレータも要注目です。

さて私事ですが、最近宗旨替えして仕事用と個人用のコンピュータをWindowsからMacに変えました。仕事用がMacBook Pro、個人用がMacBook Airです。2006年にマイクロソフトに入った時からずっとWindows一筋でしたので、MacOSが使いこなせるか心配でしたが、使ってみると案外いいものですね。M1プロセッサも非常に快適です。もっとも大学に入った1987年に初めてUNIXシステム(UTS)を使ってからずっとSunOSやSolarisなどUNIXを20年近く使っていたので、MacOSのショートカットは「体が覚えて」いました(笑)。AI関連で働く人たちはほとんどMac派なので、私もようやくAI人材っぽくなれました。

まだまだ落ち着きませんが、みなさんご自愛ください。それでは今月のレポートはこれで終わりにしたいと思います。

株式会社ジーデップ・アドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一

林憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月 株式会社ジーデップ・アドバンス Executive Adviser に就任。
日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。2020年12月より信州大学社会基盤研究所特任教授。

 

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