KEN’S REPORT「多数パラメータと科学技術」

2020.02.10 KEN'S REPORT

2019年末の紅白歌合戦ではAI美空ひばりが話題になりました。賛否両論というより、否定的な、特に不気味、という意見が多かったようです。私はこの不気味さはCGによるもので、「音声」と「CG」に分けて評価する必要があると思います。ディープラーニングを使ったヤマハのVOCALOID:AIでの音声は非常によく出来ていて、昨年9月29日に放送されたNHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」の中で『アナと雪の女王』の「ありのままで」を歌わせていましたが、美空ひばりらしい感じがよく出ていました。CGの方は過去の画像から表情を学ぶAIを利用したようですが、妙にリアルな、いわゆる「不気味の谷」の問題が起きたと思います。なぜここでディープフェイクを使わなかったのかと思います。リベンジポルノやフェイクニュースなどにも使われる技術なので、NHKが不適切と判断したのかもしれません。

ai_nhk[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから | NHK    YouTube へのリンク

3日に東大で人工物工学コロキウムが開催されました。テーマは「多数パラメータと科学技術」で、松尾東大教授をはじめ、経産省の西山商務情報政策局長、PFNフェローの丸山さん、人工物工学を提唱された吉川東大元総長など豪華な講師が登壇し、講演やパネルディスカッションが行われました。ディープラーニングと多数パラメータの議論は昨年6月の人工知能学会全国大会で丸山さんが講演されていて、昨年6月のレポートでも書いていますが、今回は多くの識者が様々な知見を述べてさらに興味深いものとなっていました。

松尾先生は
1.ディープラーニングの最新動向
2.シンボルとパターン
3.高次元科学
という内容で講演されました。

人工知能の歴史は「シンボル(記号、言語など)」と「パターン(画像、音声など)」の戦いで、第一次AIブームは「探索・推論の時代」、つまりシンボルを扱い、第二次AIブームは「エキスパートシステムの時代」で、これもシンボルを扱ったのに対し、第三次AIブームは「ディープラーニングの時代」で、パターンを扱っています。松尾先生は人間の知能はパターン処理をする(動物OS)の上にシンボル処理をする(言語アプリ)が載った2階建て構造で、どちらか一方で出来るものではないと述べました。


画像1動物OSは生命の進化の過程で得た「知覚」の能力であり、目や耳など五感を使って自分の置かれた環境を認識する能力で、非常に複雑な多数パラメータの世界です。言語アプリは動物の中で唯一人間だけが持つ高い知能を実現している「言葉」を扱うものです。人間の「知能」はこの「言語アプリ」だけでなるものではなく、パターン認識を行う「知覚」の部分を合わせて実現されるもので、過去のAIブームが去ったのはパターン認識を行う一階部分がないまま、その上のシンボル処理の研究だけ行っていたため行き詰ったということ
です。
「意味」とは「ある記号(言語など)を見た時に、脳神経回路内に再現される絵」のことであり、つまり「言語アプリ」から「動物OS」のAPIが呼ばれた時になんらかの「絵」が返ってきたら、人は意味が分かったと感じるということです。もし「動物OS」から「絵」が返って来なかったら、「意味」が分からなかったということになります。
パターンの世界を扱う知覚部分(動物OS)は多数パラメータを扱う世界(ディープラーニングの世界)で、人が猫を見て猫と認識が出来ても、シンボルを扱う「言語アプリ」は少数パラメータの世界で、なぜ猫と認識出来たかを言葉で言い尽くすことは出来ません。
現実社会に起きる問題は相互作用が非常に多い多数パラメータの世界であり、環境問題や格差問題などは人間の認識能力では全体像を捉えることが出来ません。多くの「専門家」が自分の理解の出来る少数のパラメータを切り出して問題を捉えようとするので、「専門家」ごとに違う意見が出てしまいます。製造業の現場でも「物づくり」は無限次元で、「言葉」は少数次元なので、言語による情報伝達だけではなく、高次元の情報伝達手段であるVRやARを利用することで、問題の理解の助けになるのではと述べられました。

さて3月14日(土)に2020年最初のG検定が行われます。過去の合格者の体験談から、G検定の準備期間は1カ月ほどの人が多いので、いまから始めれば十分間に合います。勉強法については昨年5月のレポートでも書いた通り、教科書を読むだけではなく、Udemyなどのオンライン講座で手を動かしたり、もくもく会に参加してみたり、いろいろな方法を用いて、知識を身に着けるのがいいと思います。日本ディープラーニング協会でも3月14日のG検定を目指す人のためのもくもく会を実施する予定なので、年度末の忙しい時期かも
しれませんが、4月の新年度から「AI人材」として活躍出来るようにこの機会に頑張りましょう。

GDEPアドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一

林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月GDEPアドバンス Executive Adviser に就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。

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