KEN’S REPORT「AI・人工知能EXPO レポート」

2019.04.11 KEN'S REPORT

2019年4月3~5日に東京ビッグサイト青海展示棟で第3回目となるAI・人工知能EXPO が開催されました。今年は東京オリンピック開催に伴い新たに作られた青海展示棟で250社の出展社、50000万人の来場者で大変賑わいました。
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私は2日目の午後と3日目に参加したので、私が見聞きした範囲でレポートを書きたいと思います。最近のAI系のイベントでは自動運転が大きなトピックになりますが、このAI・人工知能EXPOでは自動運転に関するものはほとんど見られず、IT系の展示が主で、機械学習、ディープラーニングなど最新の成果から、チャットボットやOCRなど従来からの業務改善系のものまで様々な展示がありました。

参加者もスーツを着ている人が目立ち、最新AIを自社業務に取り込もうというと熱心にブースを回ったり、セミナーに参加したりしていました。
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NTTグループのブースでは、昨年9月のGTC Japan 2018でエヌビディアのジェンスン フアンCEOが紹介したNTTグループのAIプラットフォームであるCOREVOの様々な事例が紹介されていました。
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武蔵精密工業も大きなブースを構え、製造業で大きな割合を占める製品の運搬と検査にAIを導入している事例の紹介や、製造業の現場で培われたノウハウを詰め込んだニューラルキューブを展示していました。このニューラルキューブにはJetson TX2が採用され、画像認識や音声認識を行うことが出来ます。
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またエヌビディアがAIスタートアップを支援するプログラムのINCEPTIONプログラムのメンバーであるDeepX、Elix、Ridge-i、ギリア、クロスコンパスなどがブースを構えており、AIスタートアップの勢いを感じました。
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昨年のGTC Japan 2018でも展示していたEXAWIZARDSブースでは液体を精密に計ることの出来るロボットのデモを見せていました。このデモではまずボトルを振って液体の粘性をディープラーニングで調べ、その粘性に応じてボトルを傾ける角度を調整し、指定された量の液体を非常に精度高く注ぐことが出来ていました。
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そして我々GDEPグループ GDEPソリューションズのブースではエヌビディアに関する様々な製品が展示され、先日のGTC 2019で発表されたばかりのJetson Nanoや、DDNのDGX PODが展示しました。
多数のお立ち寄り有り難うございました。
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AI・人工知能EXPOでは展示の他に有識者による多数のセミナーが開催されました。その中でいくつか興味深かったものをご紹介します。
4日の午後には「量子コンピュータは何をもたらすのか」をテーマに2つの講演が行われました。量子コンピュータには大きく分けて2つの方式があり、一つは量子ゲート、もう一つは量子アニーリングで、今回は量子ゲート方式を代表してIBM、量子アニーリングを代表してD-Waveの講演がありました。

IBM QシステムのCTOのScott Crowder氏の講演で、Crowder氏は従来のコンピュータは消費電力を増やすことで性能を上げるのに対し、量子コンピュータはqbitと呼ばれる量子ビットを増やす度に性能が倍になるため指数関数的に性能が向上するので、量子化学のシミュレーションなど組み合わせが爆発的に増えるようなものに向いていると指摘しました。プログラミングはQiskitというライブラリをダウンロードすればPythonで簡単に試すことが出来ます。

一方D-Waveは量子アニーリングに特化したシステムであり、世界で唯一量子コンピュータを出荷した会社です。量子アニーリングは機械学習の最適化問題に有効で、既に金融機関や自動車会社などに採用されています。また現在の「教師あり学習」の問題として良質なラベリングがされたデータの不足を指摘し、それを解決するジェネレーティブ・ラーニングを紹介しました。

量子コンピュータの人たちは「古典力学」と「量子力学」のアナロジーから量子コンピュータ以外のコンピュータのことを「古典コンピュータ」と呼びます。いま使っているコンピュータが「古典」と言われると量子コンピュータが未来な気がしますが、量子ゲート方式が実際の問題の解決に利用されるのはまだまだ先のことですし、量子アニーリングの利用方法はGPUコンピューティングと同じようにアクセラレータとして利用する方式なので、量子コンピュータのことは頭の片隅で意識しつつも、当分はGPUコンピューティングを含む「古典」をしっかりやるべきでしょう。

5日の午後には「ディープラーニング最新動向」をテーマにしたセッションで、東京大学の松尾教授が「ディープラーニングの最前線と今後の展望」と題して講演されました。松尾教授はまずディープラーニングの最新の研究の成果としてELMOとBERTを紹介し、ディープラーニングの世界では引き続き飛躍的な研究成果が出ていることを指摘した後、ビジネスなどへの展望について話題が移りました。松尾教授のもとには多くの企業からAIに関する相談が寄せられている中で、その多くが現在の人間の作業を代替するようなもので、AIの活用のメリットが少ない、と指摘しました。例としてエレベータを挙げ、人間が階段で登れる2階までエレベータを設置するようなことは意味がなく、エレベータの発明は高層ビルを実現したことであり、ディープラーニングの効果が見込まれる分野は「本来流れるべきだったフローを実現する」分野と指摘しました。

またAndrew Ng先生の「AI Transformation Playbook」を紹介し、AIのパイロットプログラムとしては、会社の本流の業務ではなく、また小さすぎないものを選び、何等かの成果を短期間で出せるものを選ぶ必要があり、またプロジェクトの進行には会社経営者を含む、全ての層の理解が必要である、と指摘しました。その上で、現在日本人ビジネスマンは米中と比べ、圧倒的に勉強が足りていない、と参加者の奮起を促していました。

松尾教授の後はエヌビディアのエンタープライズ事業部の井崎事業部長が3月に行われたGTC 2019の基調講演の内容を45分にまとめて紹介しました。

AIの勉強をしろ、と言われても数学や機械学習、ディープラーニングにプログラミング、GPUコンピューティングと多岐に渡り、どこから手を付けるべきか難しいところですが、その一つの指標として日本ディープラーニング協会が実施しているG検定とE資格があります。まずはG検定を目指して勉強を始めるのが効果的なので、次回以降、G検定に向けての勉強方法をご紹介したいと思います。

GDEPアドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一

林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月GDEPアドバンスExecutive Adviserに就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。

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