KEN’S REPORT「AI後進国」
先日中国浙江省の杭州(Hángzhōu、ハンジョウ)に行って来ました。 杭州は歴史のある町で、隋の時代に建築が始まった中国を南北に結ぶ京杭大運河の起点であり、唐の時代には白居易が長官をしていたり、南宋の首都であったり、街のあちこちに歴史的な建造物がさりげなくあって、豊かな歴史ある、雰囲気がとてもいいところです。また世界遺産西湖もあり、有名な緑茶の龍井茶は杭州の名産です。紹興酒の生産地の紹興も杭州から60キロほどのところにあります。
世界遺産の西湖
隋の時代に建築が始まった北京と杭州を南北につなぐ京杭大運河
杭州はアリババ創業者ジャック・マーの出身地で、現在アリババが本社を構える最先端のAIスマートシティでもあります。実際、杭州の交通信号システムはアリババのAIを活用したシティブレインでコントロールされ、導入以来、渋滞が大幅に減ったり、緊急車両が迅速に現場に到着出来るようになったりしているそうです。また監視カメラの画像から交通事故などを検知するとAIが自動で緊急車両を発進させたりもするそうです。確かに事故にあった人が自分で助けを求めるのは大変なので、AIの社会実装として優れていると思います。またアリババ本社の隣にある最新のショッピングモール亲橙里ではオンラインとオフラインを繋ぐ様々な試みが行われていて、非常に先進的なモールでした。
人口1000万人の大都市の交通システムを一私企業のAIシステムでコントロールさせるなど、日本では考えにくいですが、やはりAIはいかに早く社会実装するか、が重要だと感じました。
アリババ本社の隣にある、アリババが運営するショッピングモール
2019年6月4日の日経新聞の春秋にこんなことが書かれていました。 『知人のビジネスマンが北京でこんな経験をしたという。カバンをなくし、警察に出向いた。やがて連絡が入る。「あなたはこの店ではカバンを抱えていたが、次のビルの前では持っていない。この間に置き忘れたのだろう」――。感心するやら空恐ろしいやら、である。
中国国内に張り巡らされた監視カメラは2億台にのぼるという。こうしたカメラを結んでつくった「天網」というネットワークが国民の一挙手一投足を見ている。インターネット上では「ネットの長城」と呼ばれるシステム「金盾工程」が目を光らせる。まさに天網恢々(かいかい)。もっとも「天」が誰なのかが大きな問題なのだが。』
天網というとちょっと怖い気はします。天網恢恢疎にして漏らさず、つまり「神様が悪いことをした人を捕まえるために放つ網(天網)は広々としていて(恢恢)、目は粗いけれど(疎にして)、逃すことはない(漏らさず)」で、悪いことをしたら必ず捕まる、という訳です。(これと同義の英語の諺 “Heaven’s vengeance is slow but sure (天の復讐はゆっくりとだが確実だ)”とセットで大学受験の時に覚えましたが、若い時に覚えたことは忘れないものですね。)
今の日本では落とし物をしても人の善意で自分のところに戻ってくる可能性が高いですが、中国ではテクノロジーで落とし物が戻ってくる訳です。落とし物が善意で戻ってくるのがいいか、テクノロジーで戻ってくるのがいいか、と聞かれたら多くの人が善意で戻ってくる方がいいと答えるかもしれませんが、格差の広がるいまの日本で今後も善意に期待できるか分からないですし、テクノロジーの問題なら実装すればいいではないか、と思っても今の日本の「技術力」と「実行力」でこれが出来るかは覚束ないと思います。
先日のソフトバンクワールドの基調講演で孫正義CEOが「日本はAIでは後進国になった」と嘆いていました。最近私は月に1度くらい中国に行きますが、中国から日本に帰る度に日本は後進国だなぁと思うことがあります。私も「結構やばい」と思います。
先日日本ディープラーニング協会主催の資格合格者の会が行われ、私も参加しました。今回はG検定・E資格合格者約800人が集まりましたが、今の日本では珍しく、やる気に満ちた目をした人たちがたくさんいました。やはり向上心を持って新しいことを学ぼうという人たちは意欲が違うと思います。主催者の方が「今の日本ではAIを学んだ人と学んでいない人のレベルが違い過ぎて、会社でAIに取り組むか、という話しになっても議論が噛み合わず、全然進まない。しかし、このG検定・E資格合格者どうしなら話しがすぐ通じるから、合格者どうしが連携して、AIの社会実装をどんどん進めよう」と言っていました。私も本当にそう思います。
さて7月6日に今年2回目のG検定が行われましたが、受験された方は結果はどうだったでしょうか?今回は5,143人が受験し、3,672人が合格したようです。吉報が届いていることをお祈りします。これで延べ合格者数が9,871人となり、1万人の大台までもう少しです。とは言え先日政府が発表した、日本で必要なAI人材25万人にはまだまだ全然足りませんので、まだ受験されていない方、今回不合格だった方は是非次回にチャレンジしてください。また今回合格された方は是非次はE資格を目指してください。
GDEPアドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一
林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月GDEPアドバンスExecutive Adviserに就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。