AI歌舞伎とAI IoT

2019.08.29 KEN'S REPORT

先日京都四条の南座に超歌舞伎を観に行ってきました。演目は「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」で、2016年4月のニコニコ超会議で初演された超歌舞伎です。3年前にニコニコ超会議の会場の幕張メッセで観たときにその素晴らしさに感動して、ぜひ歌舞伎の劇場で上演して欲しいと思っていましたが、念願が叶いました。

京都南座
8-1

中村獅童がNTTの最新技術を使って初音ミクとコラボするのが眼目で、それに加えて観客がサイリウムを振って応援するなど、普段の歌舞伎にはない趣向があります。

番附(プログラム)と応援用のサイリウム8-2

歌舞伎は古典的な演劇で、同じ古典を繰返し上演していると思われがちですが、実際には時代に合わせて変化しており、元より歌舞伎は文字通り傾(かぶ)いている(常識から外れている)ので、その演技技法や物語は時空を超えて、どんな技術とも合わせることが出来ます。

 歌舞伎では役者の屋号を叫んでその役者を応援するという「大向う」という習慣があり、主演の中村獅童は「萬屋(よろずや)」、敵役の澤村國矢は「紀伊国屋(きのくにや)」と呼ばれます。超歌舞伎の約束事で初音ミクは「初音屋」、技術を提供しているNTTの屋号は「電話屋」で、NTTの技術の見せ場で「電話屋」と言うことになっています。
 番附によれば(東京では歌舞伎のプログラムは筋書と言いますが、関西では番附と言います)、今回使われたNTTの技術はkirari!のうち「任意背景被写体抽出技術」で、カメラで撮影した役者を切り出して別の場所に映像を表示させて「分身の術」のような演出に使われていました。背景がグリーンなどの単一色の場合にはクロマキー撮影で人物を切り出すことが出来ますが、任意の背景で切り出すためにディープラーニングを使っているようです。

「電話屋」の技術解説(南座の番附より)8-3

個人的な正直な感想では、この切り出しの精度はあまり良くなかったと思います。リアルタイムの高画質の動画処理にディープラーニングを使うのは難しいだろうと思いますし、実際の舞台ではおそらくそれを分かっていて、役者の背景が黒い時に使われていたので、従来手法で出来た気がします。何にAIを使い、また何に既存手法を使うのか、というのはAIの有識者が正しく判断をしないといけないところです。よく上司から「AIで何かしろ」と言われて、スタッフが右往左往して、既存技術で出来ているところにAIを無理矢理に適用する、という話を聞きますが、そのような方法ではコストもかかり概して精度も悪くなります。
 とは言え芝居自体は大変面白く、中村獅童の当たり役なので、機会があればぜひ超歌舞伎をご覧ください。

 

今年もDIYの展示発表会であるMaker Faire Tokyo 2019が8月3、4日に東京ビッグサイトで開催されました。既製品では飽き足らず、自分の手で何か面白いものを作り、それをみんなに見てもらう、というイベントです。毎年子供用のおもちゃから最新テクノロジーを使ったIoTなど様々なDIYの成果が展示されています。こうしたモノ作りの好きな人たち”Maker”向けに製品を販売している企業もスポンサーとして展示・販売しています。
これまでMakerの界隈では安価なシングルボードコンピュータのRaspberry Piが広く使われていました。もちろんMakerたちも最新のAIトレンドはどんどん取り込んでいて、Raspberry PiでAIの推論処理などをさせるようなものもこの数年で増えてきました。しかしながらRaspberry Piに搭載されたARMのCPUだけではAIの推論を行うには非力で、実際に使えるモノにするのは難しい状況でした。NVIDIAも数年前からこのような組込み用途向けにJetsonを販売していました。JetsonはARMのCPUにNVIDIAのGPUを組合せたTegraプロセッサを使って、組込み用途に必要なI/Oインターフェースを備えたコンピュータで、AIの推論をするには充分な性能がありますが、Raspberry Piと比べて高価で個人の趣味で使う人はあまりいませんでした(私は個人的にJetson AGX Xavierを持っていますが!)。しかし今年Jetson nanoが販売されてから、個人での利用も増え、今年のMaker Faire TokyoでもJetson nanoを利用したDIYの成果の展示がいくつも見られました。
Maker Faire Tokyo 2019では「AIでRCカーを走らせよう!」というイベントが行われ、ラジコンカーにRaspberry Piを組込んで自動運転の推論処理をさせて自動運転のレースを競われました。

「AIでRCカーを走らせよう!」のサーキット8-4

Jetson nanoを組込んだNVIDIAの「JetRacer」も特別に参加していましたが、Raspberry Piを搭載したものとは圧倒的なスピードの違いを見せていました。ベースとなっているラジコンカー自体の性能は変わりませんが、Raspberry Piだと推論の速度が遅く、自動運転の判断を毎秒数回しか行うことが出来ないので、速く走ることが出来ません。一方、Jetson nanoでは推論速度が速く、推論精度もいいので、速く走れるのです。新幹線の最高速度がブレーキ性能に依存するように、自動運転の最高速度は推論の速度に依存する訳です。Jetson nanoを搭載したAI自律走行車の組み立てキットの「JetBot」も販売されているので、是非遊んでみてください。我が家にも一台ありますが、自分でAIカーを組み立てて、AIの学習をさせて振る舞いを変えることも出来てとても面白いです。G検定やE資格の勉強の成果を活かせます。

Jetson nanoを搭載したラジコンカーJetRacer8-5

さて8月31日(土)には今年2回目のE資格の試験が行われます。E資格を受験される方は準備は万全でしょうか?夏休みの勉強の成果を発揮されることをお祈りします。

GDEPアドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一

  
林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月GDEPアドバンスExecutive Adviserに就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。

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