KEN’S REPORT「GTC 2019 KEYNOTE レポート」
今年で10回目となるNVIDIA主催のGPU Technology Conference(GTC 2019)が3月17日から21日まで米国カリフォルニア州サンノゼで開催されました。GTCは多くのITベンダーが実施する自社新製品の発表やその宣伝・トレーニングをする「マーケティング的」なイベントではなく、GPUに関する技術を議論する、学会のような「技術カンファレンス」で、今年も世界中から9000人以上のAIエンジニアが参加しました。中でも注目を集めるのがエヌビディアの創業者でありCEOのジェンスン フアンによる基調講演です。
動画はこちら(NVIDIAチャンネル)
今回の基調講演でジェンセンはまずこれまで提供されていたcuDNNなどのライブラリ群をまとめたCUDA-Xを発表しました。これによってHPCやディープラーニング、グラフィックス、ロボティクス、メディカル、スマートシティなど、それぞれの領域でのソフトウェアの開発が容易になります。この後、ジェンセンは基調講演を、コンピュータグラフィックス、AI&HPC、ロボティクスの3つの章に分けて説明を行いました。
コンピュータグラフィックスの章では昨年8月のSIGGRRAPHで発表された RTXによるリアルタイムレイトレーシングのさらなる進化を様々なデモで紹介しました。またクラウドゲーミングサービスであるGeForce NOWについて、通信キャリアとの提携によるGeForce NOW Allianceプログラムについても明らかにされました。通信キャリアには日本のソフトバンクも含まれており、今後5Gネットワークを利用した低遅延のクラウドゲーミングが可能になります。そしてそのプラットフォームとなるRTX Serverも発表されました。RTX Serverは8Uのラックマウント型のサーバーで、最大40基のTuring GPUを搭載出来ます。さらにこのRTX Serverを最大32台束ねたRTX Server Podも発表されました。また3D デザインのコラボレーションツールであるOmniverseも発表され、3D デザインでもGoogle Docsのように世界中の人が協業出来るようになります。
AI&HPCの章では、データサイエンスがいまコンピュータサイエンスで最も熱い分野であり、サイエンス分野でも従来の実験など手法に加え、科学的発見の新たな手法として確立した、という話から始まりました。そしてNVIDIAのデータサイエンスプラットフォームであるRAPIDSがGoogleやマイクロソフト、アクセンチュアなど様々なパートナーによって採用されたことが発表されました。こうしたデータサイエンスのソリューションを実装するデータセンター内のサーバーでは様々なサービスが動いており、それらサーバー間での通信が急増していて、データセンターでの高速通信の重要性が強調されました。そして先ごろ買収を発表したMellanoxのCEOがゲスト登壇し、データサイエンスはHPC上の新たなチャンレンジであり、NVIDIAがMellanoxを買収することの意義が示されました。
昨年のGTC Japanで発表されたTesla T4を搭載したデータサイエンス用ハイパースケールエンタープライズ向けサーバーやQuadro RTX 8000を搭載したデータサイエンス用ワークステーションなども発表されました。
ロボティックスの章では99ドルの組込み用コンピュータJetson Nanoが発表されました。Jetson Nanoは名刺サイズ大のデバイスでありながら、Tegra TX1を搭載することでCUDA-Xのソフトウェアスタックが利用可能で、ロボットやドローンなど様々なIoTデバイスで最新のAIの成果を実装出来ます。
自動運転への取り組みも着実に進んでおり、仮想空間で自動運転の学習や検証を行えるDRIVE Constellation の提供開始がアナウンスされました。DRIVE Constellationを利用することで滅多に起こらない状況など様々な状況での自動走行のシミュレーションが仮想空間上で可能になり、実車での走行テストより効率的に実験が出来ると同時に、Hardware in the loopテストにより、実際に車載されるハードウェアを検証することも出来ます。
基調講演の最後にはトヨタ自動車のAI開発会社のTRI-ADとの協業も発表され、シミュレーションでのDRIVE Constellationの利用や車載器でのDRIVE AGX Xavierの採用など、NVIDIAの自動運転ソリューションを全面的に採用することが明らかになりました。
今回の基調講演では新製品やGPUロードマップの発表などがなく、いつもの”派手さ”はありませんでしたが、グラフィックスからAI&HPC、ロボティックス、自動運転まで、多くのパートナーのロゴがスクリーンに表示され、多くのパートナーによるデモやゲスト登壇もありました。これはエヌビディアがこれまで以上にパートナーエコシステムの強化に力を入れていることの現れであり、GPUの利用が進み、GPUを使うことがどの分野でも、いい意味で、普通になったことを示していると思います。
GTC2020は2020年3月23日から26日に行われます。
GDEPアドバンス ExecutiveAdviser 林 憲一
林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月GDEPアドバンスExecutive Adviserに就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。