KEN’S REPORT「春節」

2021.03.23 KEN'S REPORT

中国の春節(今年は2月12日)から既に1カ月経ち、桜も咲きそうですが、3月3日の日経新聞に中国の大晦日のテレビ番組の記事があったので、それについて話したいと思います。中国の大晦日には「中国版紅白歌合戦」と言われる春節聯歓晩会(春晩)という番組が国営放送のCCTVで放送され、世界で12億人が観ると言われています。この番組は歌合戦というより漫才やコントがメインなので、紅白歌合戦とはだいぶ違いますが、演出の派手さや大晦日にみんなが観る番組という意味では紅白のような番組です。日本では紅白の裏番組もたくさんあるので、若い人はそちらを見るでしょうが、中国では春晩が強すぎて裏番組はほとんどないようです。もちろん若者たちにはつまらない番組で、それでも家族団らんを大事にする中国人は家族みんなで一緒に見ながら、ソーシャルメディアでそのつまらなさを発信するそうです。CCTVは中国の国営放送ですが、実はコマーシャルがあり、この春晩にもスポンサーがついています。以前は年越しのカウントダウンにちなんで時計会社が長年スポンサーで、その後はお酒の会社がスポンサーだったようですが、最近はIT企業がずっとスポンサーをしています。その広告費の高さや、広告の影響力の強さから、私は紅白というよりアメリカのSuper Bowlのような気がします。

IT企業が初めてスポンサーをしたのは2015年のテンセントです。テンセントは春晩の番組中にWeChatPayを利用して紅包(お年玉)がもらえるキャンペーンを実施しました。アプリをダウンロードして、本人認証をして、銀行口座を紐づける、などをすると数百円がもらえる、というキャンペーンですが、普段ならここまでの作業をするのは面倒で、一人のアクティブユーザーを獲得するには数千円のコストがかかるところ、「つまらない」番組を見ていた若者にはうってつけの暇つぶしとなり一気に利用者が増えました。それ以前はアリババのAliPayのシェアが70%だったのに、この春晩を境にAliPayとWeChatPayのシェアは拮抗し、これを見たアリババの創業者のジャック・マーは「これは真珠湾攻撃だ」と言ったそうです。その翌年の2016年からは3年連続でアリババがスポンサーしましたが、シェアは変わらず、2015年のテンセントの奇襲キャンペーンはWeChatPayのシェアを一気に高めた史上最も成功したマーケティング戦略だと思います。

2019年は百度で、2020年は快手、今年はバイトダンスが冠スポンサーでした。快手は日本ではなじみがないかもしれませんが、TikTokによく似たショートビデオの投稿アプリです。今年はショートビデオの最大手のTikTokのバイトダンスが12億元(約197億円)のお年玉キャンペーンを行いました。中国の企業は焼銭(お金を燃やす)と言われる、大金を投入して一気にユーザーを獲得するキャンペーンをよくやりますが、規模が大きいです。日本でもPayPayなどが100億円キャンペーンなどを以前やっていましたが、そんなキャンペーンは頻繁に行われています。この番組の派手さやスポンサー料の高さ、そして何よりどの会社がどのように番組を利用するか、どの会社がいま勢いがあるのか、どの会社が飛躍しようとしているのか、なども分かるので注目です。世界で最もデジタルマーケティングが進んだ中国の事例を学ぶ上でも興味深いところです。

syunsetu日経新聞2021年3月3日の記事より

今年もGTCの開催が発表されました。今回もオンラインで4月12日から16日に行われます。私が一番驚いたのは参加費が無料になったことです。新冠禍でイベントのオンライン化が1年以上続き、参加者もオンラインイベントへの参加には辟易していて、どのオンラインイベントも集客が急激に悪くなっているようなので、それに対応したものだと思いますが、NVIDIAの創業者でCEOのJensen Huangは「価値のあるものには対価を払うべきだ。GTCにはその価値がある」として、GTC Japanも何があっても有料で実施するように何度も言われたことがあるからです。さらに今回はGeoffrey Hinton、Yoshua Bengio、およびYann LeCunという3人のAI界の大スターをゲストに招くというなりふり構わぬ集客ぶりです。以前はGTCでもゲストを招くことがあって、TeslaのElon Musk CEOやAndrew Ng先生がゲストで来たことがありましたが、注目が分散される、として最近はJensen一人で喋っていました。Andrew Ng先生がゲストだったのは北京で行われたGTC Chinaですが、Jensenが登壇した時より、Andrew Ng先生をゲストで招き入れた時の方が観客の拍手が大きくてJensenがムッとしていたのを会場にいた私はヒヤヒヤしながら見たのを覚えています。無料とは言え、AIの最先端と今後の方向性を知る重要なイベントであることは変わりないので、是非登録しましょう。

去年の秋のGTCの後、私のYouTubeのホームページがJensenの顔だらけになってぞっとしましたが、今年はどうでしょうか(笑)。GTCの基調講演はテーマ毎に分割されてYouTubeにアップロードされていたので、それぞれにNVIDIAが広告を出したのでしょう。私の推測では基調講演の視聴者が少なかったので、PVを稼ぐためにNVIDIAが大量にYouTube広告を出したのだと思います。

さて2月19,20日に一年ぶりにE資格の試験が実施され、1,688人が受験して1,324人が合格しました。これでE資格取得者は約3,000人となり、AIの社会実装の原動力としての活躍が期待されます。
3月20日には今年最初のG検定もあり、また4月10日にはG検定・E資格合格者が集うCDLE DAY 2021【春】が開催されます。特別講演は「文系AI人材になる」の著者の野口竜二さんです。ディープラーニングが画像処理や音声認識という個別の技術としてではなく、DXの中核技術である、という認識が広がっている中で野口さんのご講演は大変興味深く、今から楽しみにしています。合格者の方はぜひ一緒に聴講しましょう。

林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月 株式会社ジーデップ・アドバンス Executive Adviser に就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。2020年12月より信州大学社会基盤研究所特任教授。

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