KEN’S REPORT「秋のGTC(後編)」

2020.10.19 KEN'S REPORT

秋のGTC(後編)

今回の基調講演は以下のように9つのパートに分かれてNVIDIAのYouTubeチャンネルで公開されていて、合計1時間8分でした。これはJensenのGTC基調講演としては最短なのではないかと思います。また日本語字幕もついています。この字幕はYouTubeによる自動翻訳ではなく、NVIDIA Japanの社員によるもので、ちゃんとした訳語が付いているので是非ご利用ください。

Part 1: “The Coming Age of AI”

https://www.youtube.com/watch?v=Dw4oet5f0dI

0時07分19秒

Part 2: “Exploring Our World, Creating New Worlds”

https://www.youtube.com/watch?v=o_XeGyg2NIo

0時05分05秒

Part 3: “AI to Fight Disease”

https://www.youtube.com/watch?v=6tA5Yt94-Bw

0時06分58秒

Part 4: “AI: Software that Writes Software”

https://www.youtube.com/watch?v=04E3EjsQLYo

0時14分03秒

Part 5: “Data Center Infrastructure-on-a-Chip”

https://www.youtube.com/watch?v=MRdJ78dWjn4

0時08分26秒

Part 6: “AI for Every Company”

https://www.youtube.com/watch?v=XiwVziNh_3s

0時06分02秒

Part 7: NVIDIA EGX Edge AI Platform Powers Autonomous Machines

https://www.youtube.com/watch?v=EmctbDnsNAc

0時06分07秒

Part 8: “Everything that Moves Will be Autonomous”

https://www.youtube.com/watch?v=ncAW5Bdq8BE

0時07分28秒

Part 9: “Computing for the Age of AI”

https://www.youtube.com/watch?v=pzbhU4ttSvM

0時06分49秒

  

1時08分17秒

前回5月のGTCの基調講演が95分だったのに対し、今回68分というのはオンラインイベントを研究した結果なのではないか、と想像します。私もコロナ禍でこの半年ほどたくさんのオンラインイベントを開催していますが、YouTubeを使ってイベントを実施した時にはYouTubeが提供する様々なデータが非常に参考になります。なかでも私は視聴者維持率というデータにいつも注目しています。視聴者維持率は講師や講演テーマなどに大きく依存しますが、私の実施したディープラーニング関連のオンラインイベントではだいたい視聴者維持率が50%前後になっています。これは例えば1時間のオンラインセミナーを行うと平均視聴時間は30分ということです。言い換えれば、平均して30分で「離脱」してしまう、ということです。オンラインで参加出来る気楽さから簡単に抜けてしまう、他の仕事が舞い込む、集中力が続かない、ということもあるでしょうし、もしかすると、これまでの物理イベントでも会場を抜けられないだけで心ここにあらず、の人が半分くらいいたのかもしれません。またイベントが長くなると視聴者維持率をキープするのは難しくなる傾向があるので、オンラインイベントはコンパクトにまとめる必要があります。

またYouTubeではどんなデバイスから視聴したか、というデータも提供されていて、PCやスマホ・タブレット、ゲーム機やテレビなどいろんなデバイスを利用して見ていることが分かります。面白いのはスマホで見ている人はPCで見ている人に比べて平均視聴時間が4割くらい短くなる傾向があることです。PCでの平均視聴時間が30分ならスマホでの平均視聴時間は18分という感じです。スマホの小さな画面で難しい技術的な講演を長時間見続けるというのは難しいことなのでこれは当然とは思いますが、オンラインイベント主催者としては、いかにPCを使って見てもらえるか、が重要ではないか、と思います。

このようなオンラインイベントの特性を研究した上で、今回のオンライン基調講演は過去最短で、かつ4K解像度で見てくれ、と言ってPCでの視聴に誘導したのではないかと思います。しかし従来のJensenの講演と比べると非常にシンプルで短いものになっていて、言葉が少ないというか、台本を読んでいるようで、Jensen節のしつこさがない、というのが個人的にはちょっと物足りない気もしました。これまでが濃厚な豚骨ラーメンだったのが、いきなりそばになったような(たぶんJensenはそばはそんなに好きではないと思います。以前「そばって本当にうまいのか?」と聞かれたことがあるので)。。

また68分という短さなら9つに分けないで1つのビデオにしてもらえれば見やすかったと思いますが、これはこれで別のマーケティングの数字を作るために必要なことだったのだろうと想像しています(GTCの総視聴者数何百万人、みたいな)。

さて、また前置きが長くなりましたが、今回の基調講演で一番注目を集めたのはData Processing Unit(DPU)のBlueField-2でしょう。

モダンなデータセンターワークロードは多岐に渡り、一つのノード内で動くものとは限りません。多くのアプリケーションは複数ノードに跨って大量のデータをやり取りしながら処理を進めて行きます。仮想化されたデータセンターでセキュリティを確保しながらスケールするためにはCPUに負荷を掛ける処理が必要になります。そのため近年SmartNICと呼ばれるこうしたモダンデータセンターのネットワーク負荷をオフロードするネットワーク機器が重要になっています。SmartNICの多くはFPGAだと思いますが、NVIDIAのBlueFieldはプログラマブルです。合わせた発表されたDOCA(Data Center Infrastructure-on-a-Chip Architecture)と共に、GPUとCUDAのようにDPUとDOCAはNVIDIAが存在する限りサポートする、とJensenは言いました。

GTCの基調講演ではBlueFieldのロードマップも発表されました。Jensenは一機にBlueField-4まで発表し、プログラマブルデータセンターインフラストラクチャの始まりを宣言しました。

GTC_2020_Slide_Deck_09

DPUのロードマップ
(GTC 2020基調講演よりビデオキャプチャ)

9月末に行われたVMware 主催のVMworld 2020ではVMwareとNVIDIAの協業の発表があり、データセンターでますます重要になるAIのワークロードを他のITのワークロードと同様にVMwareのツールを使って管理できるようになります。具体的にはNVIDIA NGCがVMwareのvSphereで利用出来るようになります。また次世代のデータセンターのためのProject Montereyでも提携し、SmartNICとしてNVIDIAのBlueField-2 DPUが使われて、CPU、GPU、DPUが連携してよりセキュアなデータセンターが構築できるようになります。

Jensen-Pat

VMwareのCEOのPatとNVIDIA CEOによる協業の発表
(VMworld 2020のVMware and NVIDIA CEOs Discussion on AI and MLよりビデオキャプチャ)

VMwareVMwareのProject Monterey
(VMworld 2020のVMware and NVIDIA CEOs Discussion on AI and MLよりビデオキャプチャ)

私の記憶が確かならばProject Montereyという名前は、今から8年くらい前にNVIDIAがGPUの仮想化を始めた時の社内のプロジェクト名と同じです。当時はKeplerアーキテクチャだったので、大した仮想化は出来ませんでしたが、VMwareはなかなか採用してくれず、CitrixのXenserverだけが対応して、なかなか厳しい時代がありましたが、隔世の感があります。

vForum

NVIDIAが優秀展示賞を受賞した2013年のVMware JapanのvForumでPat CEOと

前編でも書きましたが、今回の基調講演は70分弱に凝縮された「大人な」、「エンタープライズな」講演だと私は感じました。以前のように、こんなすごいの出来たんだぜ、すごいだろ、とギリギリに誇張された(?)表現を使って喋りながらJensen自身が一番楽しんでいるような講演と比べて、データセンター向けの製品を提供する企業として、礼儀正しく、抑制されたトーンで、正確に、また業界の盟主としての風格も感じさせながらの講演は、Quadroブランドの廃止と共に、NVIDIAも変わったなぁ、と思わせるものでした。もちろん、真面目なITエンジニアにはこちらの方が馴染み易いでしょうし、理解もし易かったでしょう。

また一方でJensenが日本から遠ざかった、とも感じました。というのはJensenの言うことがいちいち尤もで、GPUを買えば買うほどお得になったり、BlueFieldを使えばデータセンターは確実に革新的に進歩すると思いますが、そんなデータセンターが日本に出来るのか、と思うからです。GPUサーバーをたくさん買えば、必要な業務をこなすためのサーバー量は減り、購入費も運用費も大幅に下がるはずですが、それを行うためには天井の高い、排熱効率の高いサーバールームが必要で、またラック当りの電力も100KWになるような電力密度も必要になります。多くの日本企業がクラウドの利用にまだ消極的で、オフィスビルの一角にサーバーを置いて使っているような状況では、Jensenが提唱するデータセンターの構築は到底不可能に思えます。ディープラーニングだけではなく、データセンター構築でも日本は周回遅れになるのでしょうか?

さて、コロナ禍でいろいろなイベントがオンラインになったり、中止になったりしていましたが、少しずつ物理的なイベントも復活して来ている気がします。オンラインがメインながら会場にも集客して行うイベントも増えていて、10月19から22日はCEATEC関連イベントのAI SUMが日本橋で行われますし、10月28日から30日には幕張メッセでAI EXPO 2020秋が開催されます。私はどちらも参加する予定ですが、皆様も是非健康には留意されて元気にお過ごしください。

 

林 憲一
1991年東京大学工学部計数工学科卒、同年富士通研究所入社し、超並列計算機AP1000の研究開発に従事。1998年にサン・マイクロシステムズに入社。米国本社にてエンタープライズサーバーSunFireの開発に携わる。その後マイクロソフトでのHPC製品マーケティングを経て、2010年にNVIDIA に入社。エンタープライズマーケティング本部長としてGPU コンピューティング、ディープラーニング、プロフェッショナルグラフィックスのマーケティングに従事し、GTC Japanを参加者300人のイベントから5,000人の一大イベントに押し上げる。2019年1月退職。同年3月 株式会社ジーデップ・アドバンス Executive Adviser に就任。日本ディープラーニング協会のG検定及びE資格取得。

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