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ジェンスン・フアンCEOによるGTC2026 基調講演レポート(2026.3.16)

2026.03.23 イベントレポート

ジェンスン・フアンCEOが示すAgentic AI(エージェントAI)と次世代アーキテクチャ「Vera Rubin」

GTC2026(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

NVIDIAはカリフォルニア州サンノゼのSAPセンターおよびオンラインにて、年次イベント「GTC」を開催した。会場には世界各国から参加者が集い、1万人以上を収容できるSAPセンターは満員となり、熱気に包まれた。

本稿では、NVIDIAの共同創業者兼CEOであるジェンスン・フアン氏の基調講演(Keynote)の内容を、実際のトークの進行順(時系列)に沿って詳しくお届けする。AIが単なる生成から、自律的に思考し行動する『Agentic AI(エージェントAI)』へと進化した現状を踏まえ、全く新しいAIコンピューティング・アーキテクチャ、デジタルツイン、ソフトウェアOS、そして物理AI(ロボティクス)に至るまで、極めて詳細なビジョンが提示された。

 

CUDA 20周年とGeForce 25周年の歴史的節目



20周年を迎えたCUDAプラットフォーム(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

講演の冒頭、フアン氏は今年がCUDAプラットフォームの20周年、そしてGeForceの25周年という歴史的な節目であることを強調した。25年前に世界初のプログラマブル・アクセラレータであるピクセルシェーダーを発明したことが、後のAI革命の原点となったのである。CUDAを世界中のコンピュータに普及させるための多大な投資が、現在のディープラーニングとAIのビッグバンを引き起こす基盤となったと振り返った。

 

グラフィックスとデータ処理の革新(DLSS 5 / cuDF / cuVS)


構造化データ(データフレーム)を処理する「cuDF」(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

続いて語られたのは、グラフィックス技術とデータ処理ライブラリの最新の進展である。3Dグラフィックスの構造化データ(予測可能なグラウンドトゥルース)と、生成AIの確率論的なアプローチを融合させた次世代技術「DLSS 5(Neural Rendering)」がお披露目され、驚異的なクオリティの映像がリアルタイムで生み出される様子が示された。

 

さらにエンタープライズの根幹であるデータ処理の革新として、構造化データ(データフレーム)を処理する「cuDF」と、世界のデータの約90%を占める非構造化データ(ベクトルデータ)を処理する「cuVS」という2つの基盤ライブラリの重要性が語られた。NVIDIAはIBMのWatsonx.dataをはじめ、Dell、Google CloudのBigQueryなどとの提携を通じ、これまでCPUで行われていた巨大なデータ処理をNVIDIA GPUで劇的に高速化・低コスト化する取り組みを推進している。

 

推論のインフレクションポイントと「AIファクトリー」

 

トークンとワット数の関係(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

フアン氏は中盤の核として、「2025年はNVIDIAにとって推論(Inference)の年だった」と振り返り、AIの進化が生成段階から推論・行動段階へと移行したことで「推論のインフレクションポイント(転換点)」が到来したと宣言した。自ら問題を分解し、ツールを使用するエージェントAIの台頭により、推論に必要な計算要件は過去2年間で約1万倍に急増している。

 

これに伴い、現代のデータセンターはもはやファイルを保管する場所ではなく、新たなコモディティである「トークン」を生成する「AIファクトリー」へと変貌を遂げた。限られた電力(ワット)の中でどれだけのトークンを生成できるか(Tokens per watt)が、今後の企業の収益に直結する時代に突入している。フアン氏は「世界中のすべてのCEOが、自社のAIファクトリーのトークンスピードとスループットを注視するようになる」と語り、NVIDIAの推論パフォーマンスが最高レベルに達しており「トークンキング」としての地位を確立していると述べた。

 

次世代アーキテクチャ「Vera Rubin」と100%液冷システム

 

Vera Rubin(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

この爆発的なトークン需要に応えるためのハードウェアとして発表されたのが、Agentic AIのあらゆるワークロードに対応するためにゼロから設計された新世代スーパーコンピュータ・アーキテクチャ「Vera Rubin」である。Vera CPUとRubin GPUで構成され、第6世代のNVLink 72により、3.6エクサフロップスの計算能力と260 TB/sという驚異的なオールトゥオール帯域幅を誇る。

 

特に注目すべきは、この新システムが100%液冷(45度の温水冷却)を採用し、ラック内のケーブルを完全に排除した点である。従来は設置に2日間かかっていた作業がわずか2時間に短縮され、製造・運用のサイクルタイムに革命をもたらす。さらにAIのツール使用に特化して設計された「Vera CPU」は、データセンター向けとして唯一LPDDR5を採用し、極めて高い電力効率とシングルスレッド性能を実現している。

 

Groqの統合と未来へのロードマップ「Feynman」

 

Groq 3 LPU(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

今回、最も大きな衝撃を与えた発表の一つが、超低遅延の推論特化型プロセッサで知られる「Groq(グロック)」チームの買収・技術統合である。スループットに優れるVera Rubinと、トークン生成速度に特化した静的コンパイルアーキテクチャの大容量SRAM搭載Groqチップ(LP30)を組み合わせるアプローチが明かされた。AIファクトリー向けOS「Dynamo」を用いて動的に連携(Disaggregated inference)させ、プレフィルをVera Rubinで、デコードをGroqで行うことで、最も高度な推論タスクにおいてパフォーマンスを35倍に引き上げることに成功した。

 

フアン氏は将来のロードマップも惜しみなく公開した。144基のGPUを1つのNVLinkドメインで接続する「Rubin Ultra(Kyberラック)」が発表され、ラックを垂直方向にスライドさせて構築するシステムが披露された。さらに次世代アーキテクチャである「Feynman(ファインマン)」の構想も明かされ、NVFP4をサポートする新GPU、次世代Groqチップ(LP40)、新CPU「Rosa」、そしてBluefield 5が搭載される予定である。Feynman世代では、銅線(Copper)でのスケールアップに加え、CPO(Co-Packaged Optics)を用いた光スケールアップもサポートされる。

 

デジタルツイン「NVIDIA DSX」と宇宙への展開

 

NVIDIA DSX(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

巨大化するAIファクトリーの設計・運用面においては、ハードウェアの話に続いて、オムニバースを活用したデジタルツインプラットフォーム「NVIDIA DSX」が発表された。施設全体の熱やネットワーク、電力網を仮想空間でシミュレーションし、エージェントAI(Max Qなど)が動的に調整することで、無駄な電力を削減し極限までエネルギースループットを最大化することが可能となる。

 

さらに驚くべきことに、宇宙空間にデータセンターを構築する「Vera Rubin Space 1」の壮大な構想まで言及され、放射線や冷却の課題解決に取り組みながらNVIDIAのビジョンが地球規模を超えつつあることが示された。

 

エージェントAIのOS「OpenClaw」とエンタープライズ向け「NemoClaw」

 

「NemoClaw」と「Open Shell」テクノロジー(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

ソフトウェア分野における歴史的な転換点として、エージェントAIのオペレーティングシステムとも言えるオープンソースプロジェクト「OpenClaw」への全面的な支援が発表された。フアン氏はこの登場を「LinuxやHTMLに匹敵するほど重要である」と位置づけ、ソフトウェアツールを提供する従来のSaaS企業は今後、エージェントAIを提供する「AaaS (Agentic as a Service)」企業へと進化していくと断言した。

 

自律型AIが社内の機密情報にアクセスし外部と通信するリスクを制御するため、企業が安全に自社ネットワーク内で利用できるよう、高度なセキュリティとプライバシー保護機能を備えたリファレンスデザイン「NemoClaw」および「Open Shell」テクノロジーもあわせて発表された。

 

オープンモデルと物理AI(ロボティクス)の最前線

 

「オラフ」と話すジェンスン・フアン氏(出典:GTC 2026 Keynote、NVIDIA)

 

講演の終盤は、AIモデルと物理世界への応用(ロボティクス)に焦点が当てられた。言語推論の「Neotron」、物理世界生成の「Cosmos」、汎用ロボットの「GR00T」、デジタル生物学の「BioNeMo」、気象予測の「Earth-2」など、多様なオープンモデルが各分野のリーダーボードのトップに立っていることが強調された。また、「Neotron Coalition」として、Cursor、LangChain、Mistral、Perplexityなどの企業との提携も発表された。

 

物理AI(ロボティクス)の進展としては、推論能力を備えた自動運転向けAI「ALPaMo」が発表され、BYD、Hyundai、Nissan、Uberといった巨大パートナーの合流が明かされた。ステージ上にはDisneyリサーチのロボット「オラフ」が登場し、NVIDIAの物理シミュレーター「Newton」と強化学習プラットフォーム「Isaac Lab」によって生み出された自律的で滑らかな動作をフアン氏と会話しながら披露し、物理AI時代の本格的な到来を強く印象付けた。

 

基調講演の最後は、一連の発表内容(AIファクトリー、推論の重要性、Vera Rubin、Groq、OpenClaw、ロボティクスなど)をユーモアを交えて総括するラップソングの映像で締めくくられ、会場は大きな拍手に包まれた。

 

***

 

GTC 2026での革新的な取り組みは、AIが単なるツールから自律的に思考し行動するエージェントへと完全に移行したことを証明するものであった。Vera Rubinアーキテクチャの圧倒的な性能と、Groqとの統合、ソフトウェアからハードウェアに至るエコシステム全体への影響力は、今後のAI時代における大きな節目となる重要なイベントとなった。

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